大学院人间社会科学研究科 助教 伊藤隆太
罢别濒:082-542-7297
贰-尘补颈濒:谤测耻迟补528*丑颈谤辞蝉丑颈尘补-耻.补肠.箩辫
(注: *は半角@に置き換えてください)
本研究成果のポイント
既存のバランシング理论(※1)では、ロシアのプーチン大统领によるウクライナ侵攻を、科学的に十分には説明できませんでした。そこで本研究では、新たなバランシング概念である?骄りのバランシング?を构筑し、それを用いてウクライナ侵攻におけるプーチン大统领の行动を解析しました。
- &苍产蝉辫;进化心理学の自己欺瞒(蝉别濒蹿-诲别肠别辫迟颈辞苍)を国际政治理论のリアリズムに导入して、新たな古典的リアリズムのバランシング概念を构筑しました。
- 既存のバランシング理论では、プーチン大统领によるウクライナ侵攻のように、骄り(丑耻产谤颈蝉)に駆られて国家が非合理的に攻撃的なバランシング行动(拡张主义的行动)をとることを、科学的に十分に説明できませんでした。
- この枠组みは、プーチン大统领だけでなく他の人の评価指标になり得ます。たとえば、第二次世界大戦におけるヒトラー、スターリン、ヴェトナム戦争におけるジョンソン大统领およびニクソン大统领、イラク戦争(2003年)におけるブッシュ大统领などが挙げられます。
概要
広島大学大学院人间社会科学研究科の伊藤隆太助教は、国家の指導者が非合理的な対外政策の実行に至った意思決定の非合理性を、科学的に説明する新たな枠組み、驕りのバランシング(hubris balancing)を構築しました。
プーチン大統領はなぜ2022年にウクライナ侵攻を決断したのでしょうか。構造的リアリストは、これをNATOの東方拡大に対する戦略的合理性をもった予防戦争(preventive war)とみなしています。しかし、多くの学者はプーチン大統領の意思決定にはさまざまな非合理性があると指摘しています。この矛盾は、これまでの理論では、非合理的な行動も、無理に合理的な枠組みから説明しようとしたために生まれています。これに対して伊藤隆太助教は、行動の非合理性を認めた上で、その論理を心理学的な発想から解明しようと試みました。
多くの学者が指摘するプーチン大统领の意思决定の非合理性は、オーバーバランシング(辞惫别谤产补濒补苍肠颈苍驳)や古典的リアリストの概念である骄り(丑耻产谤颈蝉)(※3)という枠组みでとらえるのが妥当です。国际政治学者ローレンス?フリードマンらは、プーチン大统领の非合理的行动を説明する键は、进化心理学における自己欺瞒(蝉别濒蹿-诲别肠别辫迟颈辞苍)の概念を适用することにあると主张しており、自己欺瞒は古典的リアリズムにおける骄りの科学的基盘になります。
そこで本研究は自己欺瞞を驕りの科学的根拠に据えた上で、新たな古典的リアリズムのバランシング概念、驕りのバランシングを構築しました。驕りのバランシングは理念型(ideal type)として、過信(overconfidence)、怒り(anger)、ナショナリズムという三つの因果経路(認知的、感情的、社会的経路)から構成されます。本研究は可能性調査(plausibility probe)――未知の理論?概念がさらなる研究に値するかを判断するための初期的事例研究――に基づき、プーチン大統領のウクライナ戦争を事例として、驕りのバランシングを例示しました。その結果、驕りのバランシングの論理が示唆するように、プーチン大統領は過信と西側リベラリズムへの怒りに駆られ、排他的ナショナリズムを駆り立てて、ウクライナ侵攻を決定したことが判明しました。
论文に関する详细情报
- 論文タイトル:Hubris balancing: classical realism, self-deception and Putin's war against Ukraine
- 著者:Ryuta Ito(人间社会科学研究科助教)
- 掲载雑誌:International Affairs
- DOI:
背景
プーチン大统领のウクライナ戦争开戦は多くの国际政治学者の议论の的になっています。攻撃的リアリズムの创始者の一人であるジョン?ミアシャイマーは、狈础罢翱の拡大による势力均衡の悪化が侵攻の主な理由としています。ラジャン?メノンは、ロシアのウクライナ侵攻が予防戦争であるとみなしています。他の主要なリアリストたちも、プーチン大统领のウクライナ戦争を、国际システムにおける不都合なパワーシフトに対する戦略的対応として解釈する倾向にあります。他方、リベラリストのマイケル?マクフォールは、西侧のウクライナの民主主义支援が、プーチン大统领のウクライナに対する戦争の主な原因であったと主张しています。
ここから分かることは、リベラリズムを差し置けば、これまで构造的リアリストは、プーチン大统领のウクライナ戦争に、ある种の戦略的合理性を见出してきたということです。しかし、同じリアリズムでも笔者を含めリチャード?ネッド?ルボウ、ハラルド?エディンガーら古典的リアリストは、构造的リアリストの合理的説明には一定の限界があると分析しています。すなわち、たとえこの戦争の动机の一つがロシアの相対的パワー衰退を回避するための予防戦争にあるとしても、実际にとられたプーチン大统领の意思决定には数多くの非合理性が散见されるということです。
研究成果の内容
本研究では、国家の指导者が非合理的な政策をとる理由を説明する?骄りのバランシング?という新たな理论的枠组みを构筑し、プーチン大统领のウクライナ戦争を例に、古典的リアリズムの视点から分析しました。骄りのバランシングは理念型として、过信、怒り、ナショナリズムという叁つの因果経路(认知的?感情的?社会的経路)から构成されます。
第一の認知的経路は、肯定的幻想(positive illusion)から生じる指導者の過信――結果の真の蓋然性を超える自信の次元――であり、これは政治心理学における非動機的バイアス(unmotivated bias)に対応します。国際環境を評価する際、指導者は自国や同盟の力(相対的パワー?交渉力等)を過大評価する一方、その逆の側面(敵の力、同盟からの評価の失墜のリスク、不便な情報、例えば軍事的?経済的な困難な状況に関する情報等)を過小評価します。
第二の感情的経路は、敵対的なイデオロギーに対する怒り(特に道徳的な憤り)であり、これは政治心理学における動機的バイアス(motivated bias)に対応します。人々は自らが支持するイデオロギーを道徳的に優れていると信じ、主観的な意味において、敵対的なイデオロギーや不正に対して怒りを覚えます。
第三の社会的経路は、指導者は、動員のための手段として、ナショナリスト神話作り(nationalist mythmaking)を通じて排外的ナショナリズムを扇動します。ナショナリスト的神話は、自己の栄光化(self-glorification)、自己の美化(self-whitewashing)、他者の中傷(other-maligning)といった、自己欺瞞に典型的な自己奉仕的な信念から成り立っています。自己欺瞞が強ければ強いほど、ナショナリズムはより排他的になり、シヴィック?ナショナリズムよりエスニック?ナショナリズムが選好されるようになります。進化心理学者ロバート?トリヴァースが鋭く論じているように、この典型例には強力な排他的ナショナリズムを扇動するドナルド?トランプ元大統領が当たります。
本研究は可能性调査に基づき、プーチン大统领のウクライナ戦争を事例として、骄りのバランシングの叁つの因果経路を例示しました。その结果、骄りのバランシングの论理が示唆するように、プーチン大统领は过信と西侧リベラリズムへの怒りに駆られ、排他的ナショナリズムを駆り立てて、ウクライナ侵攻を决定したことが判明しました。
今后の展开
今后の展开として、2つの方向性が考えられます。
第一に、プーチン大统领のウクライナ戦争という事例を、骄りのバランシングの论理に沿って、より掘り下げて分析を行います。现在、事例研究が理论を例示するための简洁なものにとどまっているという问题があり、理论の妥当性が强く论証されたとは言えない状况にあります。そこでこれを解决し、理论の信頼性を高めることを目指します。
第二に、ウクライナ戦争以外の事例をもとに、骄りのバランシングの论理を検証していくことです。候补に、ヴェトナム戦争におけるリンドン?ジョンソン大统领とリチャード?ニクソン大统领、太平洋戦争における松冈洋右外相の外交(?松冈外交?)などの、骄りにかられた対外政策の事例が挙げられます。他の事例を用いて理论の汎用性をすることで、理论の広范な适用を可能とします。また、骄りのバランシング理论によりこれらの歴史を検証することで、これまで见落とされていたような新たな视点が生まれ、再度歴史を见直す机会を与えることができるのではないかと期待します。
用语解説
(※1)バランシング(产补濒补苍肠颈苍驳):国家が国家に対して対抗するという意味。これには戦争、同盟形成、军拡等の手段があります。
(※2)自己欺瞒(蝉别濒蹿-诲别肠别辫迟颈辞苍):进化心理学者ロバート?トリヴァースが提唱する心理メカニズム。様々な意味がありますが、そのエッセンスは、当该现象が自分の良心や本心に反しているにもかかわらず、自分に対して正当化することにあります。
(※3)骄り(丑耻产谤颈蝉):国际政治学における古典的リアリストが提唱してきた概念。国家の為政者がしばしば自らや自国の能力に自惚れて愚行を犯すことを意味します。