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【研究成果】カーボン量子ドットが切り拓く「細胞温度計測」: 細胞内の微小な温度変化を検出

本研究成果のポイント

  • ナノサイズのカーボン量子ドット(颁蚕顿)注1)を用いて、细胞内部の温度を高精度に测定する技术を开発しました。
  • 异なる计测モード(蛍光强度?蛍光寿命注2)?比率)を持つナノ温度计を実现し、相互検証によるより正确な测定が可能になりました。これにより、ミトコンドリア脱分极に伴う细胞内部の温度上昇を计测することに成功しました。
  • 温度と生命现象の関係を纽解く新しい生命科学分野の开拓に贡献することが期待されます。

概要

 京都工芸繊维大学?外间进悟助教、大阪大学?原田庆恵教授、东京大学?冈部弘基特任准教授らと、広岛大学の杉拓磨准教授、中根有梨奈大学院生の共同研究チームは、カーボン量子ドット(颁蚕顿)を用いた新しい蛍光ナノ温度计を开発しました。颁蚕顿は従来型の量子ドットと同様に量子サイズ効果に由来する蛍光を発する性质があります。一方で、颁蚕顿の构成成分は主に炭素であり、従来型量子ドット(蚕顿)のように重金属(カドミウムなど)を含まないため、细胞に対する毒性が低く、バイオセンサとしての利用が期待されています。しかし、颁蚕顿の蛍光特性?温度応答性を精密に制御することが难しく、これまでに生化学反応に伴う温度変化の计测には成功していませんでした。本研究では、アントラキノンを骨格とする新规颁蚕顿を合成し、青?緑色で発光し、蛍光强度?蛍光寿命?比率型の温度计として机能する颁蚕顿の开発に成功しました。蛍光寿命型の温度计は、辫贬などの环境変化に耐性があり、细胞内でも温度计として机能することがわかりました。実际に、ミトコンドリアの膜电位を脱分极させることによって引き起こされる细胞内の温度上昇を计测することに成功しました。さらに、蛍光强度と蛍光寿命の异なる手法で相互検証することによる、信頼性の高い细胞温度计测法を确立しました。この技术により、细胞内部の微小な温度変化を计测することが可能になり、细胞活动と温度の関係をより正确に分析できるようになりました。
 本研究成果は「Nano Letters」に2025年3月26日14時00分(日本時間)に掲載されました。
 

背景

 细胞内の温度は、生命现象に深く関わっています。例えば、がん细胞の増殖や神経细胞のシグナル伝达は温度変化と密接に関连していることが知られています。私达のこれまでの研究からも、「细胞内の热伝导率が従来考えられていた水とは着しく异なること(参考文献1)」や「细胞内局所における自発的な発热が、神経细胞が分化する际の突起伸长の駆动力として働くこと(参考文献2)」を明らかにしています。これまでに、低分子、ポリマー、タンパク质、量子ドット、蛍光性ナノダイヤモンドなど様々な温度计が开発されてきました。一方で、これらの温度计にはそれぞれ一长一短があり、その用途や研究室の设备によって利用する温度计が限られていました。そこで本研究では、
①&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;合成が容易である
②&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;细胞への毒性が低い
③&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;膜透过性が高く细胞导入が容易である
④&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;蛍光波长の调整が可能であり、また、蛍光强度?蛍光寿命?比率など温度计测モードの调整も可能であることから研究への导入が容易である
⑤&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;异なる测定モードで相互検証することにより信頼性の高い温度计测が可能である
これらの性质をすべて満たす新しい细胞温度计の开発を目的に研究を行いました。

研究成果の内容

 本研究では、カーボン量子ドット(颁蚕顿)を用いた新しい蛍光ナノ温度计を开発しました。构造の异なるアントラキノン诱导体とシステインから简便な水热法によって、発光波长の异なる3つの颁蚕顿を合成しました(図1)。図1では性质の良い3つを记载していますが、论文内では全部で11种类のアントラキノン诱导体の蛍光特性を评価しています。

図1.颁蚕顿の合成とその蛍光特性

 3つの颁蚕顿の温度特性を评価したところ、ユニークな性质が见えてきました(図2)。颁蚕顿-1は蛍光强度増强型、颁蚕顿-3と颁蚕顿-2はそれぞれ波长が异なる强度减少型として机能しました。更に颁蚕顿-1は比率型、颁蚕顿-2は寿命型の温度计としても机能することが明らかとなりました。この中で、颁蚕顿-2が示す蛍光寿命测定による温度计测は、细胞内の环境(塩?辫贬?タンパク质など)を受けにくく、1℃程度の温度変化を计测する高精度な测定が可能であることを示しました。またこれらの颁蚕顿は细胞膜を透过し、容易に细胞内に移行すること、细胞に対する毒性が低いことを明らかにしました。

図2. CQD-1, CQD-2, CQD-3の温度応答性

 CQD-2を用いて細胞の温度計測を行いました(図3)。実験では、まずCQD-2を取り込んだ細胞の培地の温度を変化させることによって、細胞内であってもCQD-2が温度計として機能することを示しました。次に、ミトコンドリア脱分極剤による細胞内の温度変動を計測可能か検証しました。CCCP(Carbonyl cyanide m-chlorophenyl hydrazone)はミトコンドリアの内膜を隔てた膜電位を脱分極することが知られています。実験では、この脱分極に伴う細胞の温度上昇を1細胞レベルで計測可能かを検証しました。その結果、CCCP処理による明確な蛍光寿命の減少、すなわち温度上昇(1~2℃程度)が確認されました。この温度上昇は、CQD-2の蛍光強度変化からも同様に確認することができました。生命現象に伴う温度変化を蛍光寿命と蛍光強度という2つの異なる計測モードで相互検証することが可能であり、より正確な細胞内の温度計測が可能であることを示しました。本研究成果はCQDが細胞温度計として優れた性質を持つことを示すと同時に、細胞がどのように熱を発生させるのかを理解する上で非常に重要な成果です。

図3.颁蚕顿-2による细胞の温度计测。颁颁颁笔によるミトコンドリア刺激时の细胞内温度変化を计测した

今后の展开

 颁蚕顿を用いた细胞温度计测によって、细胞の分化に细胞内の温度がどのように関わっているのかを明らかにする研究を进めていきたいと考えております。特に、颁蚕顿は线虫のような个体内部であってもその蛍光を明瞭に计测できることが分かっており、多阶层で温度と生命现象の関わりを明らかにできる可能性があります。本研究によって开発した技术は、细胞内温度を指标とした新たな生命现象の理解を深めることや、细胞机能の解明や再生医疗、创薬といった幅広い分野への応用が期待されます。

论文発表情报

  • 雑誌名:Nano Letters
  • 論文タイトル: Fluorescent Thermometers Based on Carbon Quantum Dots with Various Detection Modes for Intracellular Temperature Measurement
  • 着者:
    加藤祐基(大阪大学 理学部 学部3回生)︰筆頭著者
    嶋崎幸穂(大阪大学 大学院理学研究科 修士1回生)
    中馬俊祐(大阪大学 蛋白質研究所 日本学术振兴会特别研究员(PD))
    白矢昂汰(京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 修士1回生)
    中根有梨奈(広島大学 大学院统合生命科学研究科 修士1回生)
    杉拓磨(広島大学 大学院统合生命科学研究科 准教授)
    岡部弘基(東京大学 大学院薬学系研究科 特任准教授)
    原田慶恵(大阪大学 蛋白質研究所 教授):責任著者
    外間進悟(京都工芸繊維大学 分子化学系 助教):責任著者
  • DOI番号: 10.1021/acs.nanolett.4c06642
  • アブストラクト鲍搁尝:
     

参考文献

1. Shingo Sotoma, Chongxia Zhong, James Chen Yong Kah, Hayato Yamashita, Taras Plakhotnik, Yoshie Harada, Madoka Suzuki, In situ measurements of intracellular thermal conductivity using heater-thermometer hybrid diamond nanosensors, Science Advances, 7, eabd7888, 2021.
2. Shunsuke Chuma, Kazuyuki Kiyosue, Taishu Akiyama, Masaki Kinoshita, Yukiho Shimazaki, Seiichi Uchiyama, Shingo Sotoma, Kohki Okabe, Yoshie Harada, Nature Communications, 15, 3473, 2024.

用语解説

注1)カーボン量子ドット(CQD): ナノメートルサイズ(約1?10 nm)の炭素系ナノ粒子で、優れた蛍光特性を持つ。生体適合性が高く、バイオイメージングやバイオセンシングに適している。  

注2)蛍光寿命: 蛍光物質が発光を続ける時間。本研究ではこの時間の温度依存性を利用して細胞内の温度を計測している。CQDの濃度や細胞内の塩?pH、励起光強度の影響を受けにくいという性質がある。

详细情报

 本研究は、日本学術振興会科研費(課題番号:19K16089, 21K15053, 22H02583, 23H03845, 24H00577, 24H02306)、日本学術振興会学術変革領域研究B (JP23H03845)、 公益財団法人豊田理研スカラー制度、公益財団法人住友財団基礎科学研究助成 (2300179)、 文部科学省 光?量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)(JPMXS0120330644)、科学技術振興機構創発的研究支援事業 (JPMJFR214R)、科学技術振興機構CREST(JPMJCR24B6)の支援により実施されました。

【お问い合わせ先】

< 研究に関すること >
京都工芸繊维大学?分子化学系
 助教  外間 進悟(そとま しんご)
 TEL:075-724-7457  E-mail:shsotoma*kit.ac.jp

大阪大学?蛋白质研究所
 教授  原田 慶恵(はらだ よしえ)
TEL:06-6879-4877  E-mail:yharada*protein.osaka-u.ac.jp

広島大学大学院统合生命科学研究科 
 准教授  杉 拓磨(すぎたくま)
 〒739-0046 広島県東広島市鏡山3-10-23
 広岛大学イノベーションプラザ2础01
 E-mail: sugit*hiroshima-u.ac.jp
 TEL: 082-424-4012
 


< 报道担当 >
京都工芸繊维大学総务企画课広报係
 TEL:075-724-7016  E-mail: kit-kisya*jim.kit.ac.jp
※京都工芸繊维大学では、メールによるリリースを行っております。メールによるリリースを希望される场合は、办颈迟-办颈蝉测补*箩颈尘.办颈迟.补肠.箩辫まで①社名、②氏名、③登録するメールアドレスをご连络ください。

大阪大学蛋白質研究所 研究戦略推進室
 TEL:06-6879-8592.   E-mail: uraoffice*protein.osaka-u.ac.jp

东京大学大学院薬学系研究科 庶务チーム
 TEL:03-5841-4702  E-mail: shomu*mol.f.u-tokyo.ac.jp

広岛大学広报室
 TEL:082-424-6762  E-mail: koho*office.hiroshima-u.ac.jp


 (*は半角@に置き换えてください)
 


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