今任 景一 准教授 インタビュー
2021年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)採択者

リサイクル时代のための「繰り返し使える接着剤」、
サブナノスケールの緻密な分子设计とマルチスケールの材料设计で実用化をめざす
素材を伤つけない解体性接着剤が现代社会に欠かせない
戦略的創造研究推進事業(さきがけ)で採択された私の研究テーマは「熱安定な分子スイッチによる光可逆性接着剤の開発」です。「分子スイッチ」とは2 つ以上の安定状態を行き来できる分子のことで、この分子を使って、光により繰り返しつけたりはがしたりできる接着剤の開発を進めています。
接着剤は、私たちの身の回りのあらゆる製品に使用されていますが、実はなぜくっつくのか明确にはわかっていません。ただ、プラスチックやゴムなどの高分子素材はボルトや溶接でくっつけることができないので、接着剤を使うしかありません。また近年、自动车分野などで异なる素材を适材适所で组み合わせるマルチマテリアル化が注目されており、异なる素材同士を接着する技术のニーズも高まっています。一方、リサイクルのためには、素材を伤つけずにはがせる「解体性」も重要です。热を加えてはがすタイプはこれまでも使われてきました。しかし、この方法だと被着材全体に热が加わるため、素材がダメージを受けてしまい、せっかく分离してもリサイクルできないことがありました。
私が作りたいのは、紫外线など特定の波长の光で解体できる接着剤です。光は狙ったところを望みのときだけ照射することができます。また、光の波长や放射照度などの条件も简単?精密に制御できるので、被着材へのダメージを抑えることができます。
では、どうやってそういうものを作るのか。そこに関わってくるのが、私の研究の轴である「机能性色素」と「高分子」です。高分子はプラスチックやゴム、树脂などの材料の総称で、接着剤も主に高分子でできています。机能性色素は光や力、电気などの外部刺激によって色が変わったり、性质が変化したりする分子のことです。冒头の分子スイッチも机能性色素に含まれます。この2つをかけ合わせることで、刺激によって接着力を持ったり失ったりする接着剤が作れます。
「机能性色素」と「高分子」を高度に扱える化学者として&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;&苍产蝉辫;
さきがけでは、光による分子スイッチの変化に起因して、固体から液体に、また液体から固体に変わる接着剤を開発しています。固体のときは強く接着しますが、紫外線を当てると液体になってはがれます。さらに液体に可視光線を当てることで固体に変わって再度接着します。研究テーマの「熱安定」とは、光を当てなければ分子スイッチの変化が起こらず、固体と液体の状態を安定に保てることです。よく知られている分子スイッチにアゾベンゼンがあります。アゾベンゼンを用いることでも固体?液体を変えることはできますが、アゾベンゼンには「熱不安定」という欠点があり――つまり、室温で液体状態を保てず、すぐに固体に戻ってしまうのです。私が研究する分子スイッチのHSS(Hindered Stiff Stilbene)も永久に戻らない訳ではありませんが、半減期(半分が元に戻る時間)が1000年と長いので、これなら実用化も期待できると思っています。
「紫外线で解体できる」というと、「では屋外では使えないんじゃないですか」と质问されることがよくあります。确かに太阳光は紫外线を含んでいますが、全体ではそれ以外の可视光线の割合の方がずっと多いのです。私たちの多くの系では、可视光线を当てると固体になるので、屋外でも固体状态を维持できます。また、分子スイッチが応答する光の波长や固体?液体の変化の有无?方向などは、分子スイッチや高分子、材料の设计により変えることもできます。この分子?高分子?材料设计こそが、私の研究のおもしろいところでもあり、ハードルにもなるところ。「くっつく」「はがれる」という、目に见える巨视的な変化を生むためには、サブナノスケールの微视的な世界で精密に分子构造を设计するだけでなく、その间のスケールの材料构造も适切に设计することが欠かせません。大きく异なるスケールを行き来しながら全体を设计するのはとても难しいことではあるのですが、それができることに自分の强みを感じています。
おもしろい研究のために、积极的に新たな分野に飞び込む
现时点で「光ではがせる」というコンセプトは実証できているので、今后は公司との共同研究により商品化?実用化をめざしたいと考えています。そのためには、さらなる接着强度と可逆性の向上が不可欠です。一度だけではなく、何度も繰り返しつけたりはがしたりできるようにすることを目下の课题に定めています。
私のポリシーは「おもしろい研究をすること」です。さきがけで採択されたテーマも、このポリシーに沿って决めました。常识を覆し教科书に载るような成果を出したいと梦见ていますが、それを実现するアイデアは、同じところに留まっていては浮かびません。おもしろい研究を続けるために、どんどん新しい分野に踏み出していきたい。今は色素や高分子の合成、设计をよりスムーズにするべく、机械学习を取り入れたいと考えています。さきがけのテーマ以外にも柔らかいアクチュエーター(人工筋肉)の研究も进めているので、ソフトロボットの开発にも挑戦したいし、やってみたいことはいろいろ。积极的に新しい分野に飞び込むチャレンジ精神も、私のもうひとつの强みだと思っています。