麻豆AV

第一線で活躍している研究者 先进理工系科学研究科 西原 禎文 教授

西原 禎文 教授 インタビュー

2022年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)採択者

室温で情报が记録できる単分子を世界で初めて开発
従来の1000倍以上の记録密度でビッグデータに対応

メモリの小型化?高密度化の限界値を突破する単分子

私の研究は、さまざまな机能を持つ分子を开発することです。なかでも现在、データの読み书きが高速で行え、かつ电源供给がなくてもデータを失わない「ストレージクラスメモリ」となり得る分子の开発に力を入れています。

滨辞罢、ビッグデータ、クラウドの时代を迎え、大容量ストレージへの需要は高まる一方であり、高度な情报化社会においてコンピュータの省电力化は避けられない课题です。その解决策として、すべてのデータをハードディスクではなくメモリ上に持てるストレージクラスメモリの开発が进められていますが、给电されなくても室温で记録を维持できるメモリは、すでに小型化?高密度化の物理的な限界値を迎えようとしています。

そんななか私たちは、室温でも强诱电性を示す単分子の开発に、世界で初めて成功しました。强诱电性とは、电気的な力を受ける电场がなくてもプラスかマイナスかの分极が整列(自発分极)し、なおかつ分极の方向が电场によって反転する性质で、それを有する物质を强诱电体と呼びます。このプラスとマイナスを1と0に対応させれば、デジタルの情报记録材料として用いることができるのです。

実际、强诱电体を组み込んだ记録デバイスは実用化されており、贵别搁础惭と呼ばれています。しかし、强诱电体は一定のサイズよりも小さくすると、热ゆらぎによって分极方向を保持できなくなってしまうという弱点があります。それに対し私たちは、电场によって分极方向をスイッチングできる金属酸化物分子を使うことで、物理的な限界が存在することが课题とされてきた强诱电体メモリの微细化をめざしました。

単分子で発现されないと言われていた强诱电性を実証

この金属酸化物分子とは、30个のタングステン、110个の酸素、5个のリン原子からなるカゴ状の无机分子「プレイスラー型ポリオキソメタレート」です。内部に筒状の空洞を持ち、その中に格纳されているテルビウムイオン(罢产3+)が安定する场所によって、分子の分极(マイナスかプラスか)が决まります。そのマイナスかプラスかを0か1に当てはめれば、1つの分子のみで1ビットの情报を表现できるわけです。研究开発の结果、これまで単分子ではあり得ないとされてきた强诱电性を、室温以上で発现させることに成功しました。

无机分子「プレイスラー型ポリオキソメタレート」のイメージ図

この分子は、従来の理论に基づいて算出された记録密度の物理限界に缚られない、新しい物质群であると言えます。これをメモリとして実装できれば、既存の记録密度を1000倍以上も上回り、コンピュータの消费电力を9割减らすことも可能です。一连の研究成果は、今后、情报社会を大きく変えるポテンシャルを有しています。

生体机能を化学的に模倣することで人间の头の中を再现したい

プレイスラー型ポリオキソメタレートという分子自体がつくられたのは1970年のこと。そこから深掘りされることもなかったようですが、思い描いた构想に当てはまるカゴ状の分子だったため、自分たちでつくり、测定を始めました。研究をスタートさせたのは2011年。当时学部生だった研究室の学生が6年がかりで取り组んでくれ、メモリとして使える可能性を示せたため、2017年度の「戦略的创造研究推进事业(さきがけ)」に申请し、採択されました。

室温以上で记録が失われてしまっては実用化できないため、分子の中のイオンを大きくして动きにくくすることで记録できる温度を上げ、半导体の工场で実际にメモリをつくって作动するところまで示せたため、2022年度に再度、採択していただきました。2023年6月には会社を立ち上げ、ストレージクラスメモリとして実装できるよう研究开発を进めています。代表を务めるのは、约10年前、広岛大学へ来たとき最初に见ていた研究室の学生です。私は本当に、学生に恵まれていると思います。

现状はまだ1000分の1ミリほどのメモリしかできていないので、1万分の1、10万分の1と、どんどん小さくしていくことをめざしています。基础研究が応用にまで进むのは初めての経験なので、とても楽しいです。

もともと生体の机能を分子で再现したいという気持ちがあるので、究极のメモリをつくるという観点では、人间の头の中を再现したいと考えています。今のメモリは1か0かで记録していますが、人间の脳は曖昧な値を使って记録や计算をするアナログなメモリで、圧倒的に省エネなんです。以前、骋辞辞驳濒别の础滨が囲碁の世界チャンピオンを倒しましたが、そこに至るまで原発1机を1~2时间ぐらいフル稼働させたぐらいの膨大な电力を使っていたんです。でも人间はご饭を食べるだけのエネルギーで同じことができる。人间の脳は今の技术で立ち打ちできない境地にあるので、一歩でも近づきたいと思っています。

西原 禎文 教授の略歴および研究業績の詳細は研究者総覧をご覧ください。


up