池田 丈 准教授 インタビュー
2023年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)採択者

これまで见过ごされていたケイ素を利用する细菌、
ケイ素の循环における「新たな役者」か
ありふれた元素とありふれた细菌から生まれた新発见
ケイ素は地球上で二番目に多い、とてもありふれた元素で、自然界では主に鉱物として存在しています。また、半导体やガラスの材料、乾燥剤のシリカゲルなどとして我々の生活にも広く利用されています。一方、自然界に多く存在する元素でありながら、生きるためにケイ素を活用する生物はそう多くはありません。とくに知られているのは単细胞の藻类である珪藻で、ケイ素を细胞内に取り込んで、复雑な构造のシリカ(ケイ素の酸化物)の殻を作って身を守っています。身近なところでは、稲も根から多量のケイ素を取り込み、やはりシリカとして茎や叶などに蓄积して物理的な强度を高めています。これらはいずれも真核生物(细胞核をもつ生物)に属し、古くから注目されて研究が进んでいましたが、その一方でずっと见逃されてきたものもあったようです。
より原始的な细菌などの原核生物(细胞核をもたない生物)でも、ケイ素を利用して生きているものがいるのではないか――そう兴味を持って调べてみたところ、纳豆菌に近縁な、やはりありふれた土壌细菌がケイ素を利用していることがわかりました。当初は「これは例外的な存在だろう」「とても珍しい性质なのでは」と思っていましたが、その后、私たち以外の研究グループからも似たような报告が上がり、意外に多くの细菌がケイ素を利用して生きているということが明らかになりつつあります。今では「わりと简単に见つかるのに、なぜこれまで気づかれなかったのだろうか」と不思议に思うほどですが、未発见の事実がまだ数多く眠っているということに、研究の醍醐味を感じています。

细菌のシリカ画像(电子顕微镜写真)
こうした発见を経て、今は「海洋酸性化がもたらすケイ素循环の破绽への対策」という新たな研究テーマに取り组んでいます。これまでは土壌中の细菌を対象として研究を进めてきましたが、2023年度の戦略的创造研究推进事业(さきがけ)への申请をきっかけに、ケイ素と细菌の研究を海洋へと展开することになりました。
ケイ素の循环モデルをアップデートし、海洋のさらなる理解を
珪藻は海洋における重要な一次生产者(二酸化炭素から有机物を生产する生物)で、地球上の颁翱2固定の约20%を担っているといわれています。海水に含まれるケイ酸(水に溶けているケイ素)を利用してシリカの殻を作ります。シリカは水よりも重いため、珪藻やその遗骸は、徐々に深层へと沉降します。珪藻のシリカの大半は溶解して再びケイ酸へと戻りますが、一部は海底へと沉んでいきます。このときに有机物も一绪に沉んでいくため、珪藻が形成するシリカの沉降は、炭素を海洋深层へと引き込む「生物ポンプ」の机能を果たしています。しかし、大気中颁翱2浓度の上昇に伴う海洋酸性化が进むと、このシリカの沉降と溶解のバランスが崩れ、海洋中のケイ素の循环に影响を及ぼすという予想が最近报告されました。ケイ素循环のバランスが崩れると珪藻の生育にも大きな影响がもたらされることになり、最悪のシナリオでは、西暦2200年までに地球上の珪藻の4分の1がいなくなってしまうという予想もあります。そうなれば当然、炭素の循环にも大きな変化が生じることでしょう。
しかし、この予想で考虑されていない要素として、ケイ素を利用する细菌の存在があります。これまで海洋におけるケイ素循环の主役は珪藻だと考えられていましたが、海洋中にもケイ素を利用する细菌がいることが近年発见されました。海洋酸性化が海洋中のケイ素循环に及ぼす影响を正确に把握するためには、ケイ素を利用する细菌という「新たな役者」の存在を无视することはできません。原核生物も含めた形でケイ素循环のモデルをアップデートしていく必要があります。海洋中の细菌がケイ素循环に与える影响を正确に把握したうえで、健全なケイ素循环ならびに健全な炭素循环を维持するために必要な対策を讲じていこうと研究を进めています。近年は河川へのダム建设の影响で、陆から海へと供给されるケイ酸量が减少しているともいわれていますが、细菌の力を利用して、鉱物からケイ素を积极的に溶出させる技术を开発できないかということも考えています。これができれば、海洋のケイ素循环のバランスを维持することもできるかもしれません。
异分野の研究者との交流から生まれる新たな気づきに期待
あまり长期的な课题を设定するタイプではありませんが、地球温暖化をはじめとするさまざまな环境问题を先送りせず、少しでもよい形で次世代にバトンを渡していきたいという思いがあります。「さきがけ」に採択されたのも、2023年に新たに発足した研究领域(海洋バイオスフィア?気候の相互作用解明と炭素循环操舵)の目标と、これまで10年以上に渡ってケイ素と细菌について考えてきたことが、うまくつながったからではないかと思っています。
私の専门は主に応用微生物学やバイオテクノロジーと呼ばれる领域で、ケイ素と出合ったのは学位取得后に広岛大学の研究员として半导体分野との融合研究を行うことになってからでした(ケイ素は半导体の主要な材料)。农学系の大学院出身の自分が、そのときに初めて工学系の研究者と协働することになり、异分野と连携する际の难しさや面白さを知りました。研究の文化や考え方も大きく异なり、コミュニケーションひとつとっても苦労することがありました。しかしだからこそ、新しい発想も生まれるのだと身をもって体験することができました。
今回「さきがけ」の同じ研究领域に採択された研究者は私にとって异分野の方も多く、意见交换したり连携したりすることで、新たな気づきにつながることもあるのではないかと期待しています。新たな分野に挑戦するためには学ばなければならないことも多く、大変ではありますが、积极的に交流しながら研究を进めていきたいと思っています。
